広瀬川千尋八尋の懐中(ふところ)に抱(だ)かれ涅槃のオヽ長枕
うなそこの板にいろはにほの字を切って民の暮らしのちりぬるをコレ
生田川夢に水無瀬の彼岸花覚めては袖に沖つ白波
浜つ風寄る辺渚に立ち出でてここは須磨の浦霞立たんせ
長良川浮かぶ戸板に身を乗せて犬や往なずやともに浮き世に
日の出ずる国日本のひむかしにそこひの動く谷あるとかや
須磨の浦つれなき松は国分町いつか小松と蝶々夫人
ときどきの花のいのちの三笠山焼くはろうそく線香 召せや
春の猫に後れて三三が九か月君に近江になれぬよ砧
百年を積めど詮無き石垣の名のみの島へ いざ見にごんせ
わが土地に心おく山鳥辺山常ならざれど腹立てしゃんす
長き世の遠の眠りを眠られぬ地震(ない)を怖がる子のいじらしや
歌わんや稽古重ねて名取川波に押されて青葉城エヽ
やてかんせ津波バブルじゃほうらんせ神のお庭の清めささらじゃ
白白と裾の紫色あせて又赤き雲海にたなびく
FUKUSHIMA
さてもさても伊達な風俗エレキテル小気味良い良い壊れっぷりの
ガバナーは千早振りにし昔より民にゃ片刃のトップダウンさ
まつりごと抑々(そもそも)彼らは放蕩の大金玉を広げるがまま
「いとあはれ今β線の野に出でて民草伏すはわが科ならず」
チェレンコフ光これはたまらぬこりゃどうじゃ忍びてみても水に流れぬ
八雲立つ出雲八重垣妻籠に隠すデータは空から見よや
レディオレディオと尾を振り立てる民よりも鳴かぬ現場がソレ身を溶かす
春まだき早緑(さみどり)におう双葉町触らば散らん孫も曾孫も
テプコさん情けもあらば英文をちょっと正しく訳して紅葉
恋猫のねこのこねこの顔を見ず道を急ぐとやら しょんがいな
ウクライナ昔を今に写し絵の及ばぬ筆のにじむ しょんかえ
安達太良に吹くは不毛の役所風松の緑の浮世 ヨイヤサ
百三十七の重さのセシウムは幾代重ねてや千代見草
いつまでも必ずここに猪苗代いとし姫小松 しやほんにえ
岩走る石巻より魚の尾の青う会いたい相生の松
参考歌詞(順不同)
「新曲浦島」「喜撰」「手習子」「浜松風」「天下るの傾城」「京の四季」「臥猫」「宝船」「たぬき」「鷺娘」「廓丹前」「白酒売り」「蜘蛛拍子枚」「水仙丹前」「伊勢参宮」
初出:詩誌「GANYMEDE」vol.53 片野喜代美の名で発表したものに加筆。