Friday, February 29, 2008

空のかさぶた

そののちを湿った風が撫でて去りオプティミストが静かに育つ

ライラックはしたないほど泣き叫ぶ記憶の路地が近づいてくる

のびやかな梅の若枝に花まぶす庭は口鼻ふさいで抜けろ

かまわない空を包んでいく今が最後の夕焼けだったとしても

さかさまに並べた本の背表紙に爪立てて目は窓を見ている

ブリキ缶ひとつ残ったゴミ捨て場ためらうな吸われる奪われる

たくさんの僕が世界を後にしてやがてひとりも見えなくなった

Wednesday, February 27, 2008

西の字入りたる春の歌二首

幾百の国へ飛び立つ支度して西を見るらん辛夷の蕾

西風の吹かざりしかば梅林は膨らむ如く匂い散るなり

西にさしたる意味なし客観的事実にして是単なる日常詠也


  *初出 http://po-m.com/forum/ [2007年3月8日9時00分]

Tuesday, February 26, 2008

あいのうた

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.心、といふ
.苦き痛みを
.湯に溶いて
.刷毛で塗り込む
.       項へ
.       腕へ
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. バランスは滅びへ向けて失はる
. 肉体の華
. くれなゐの夜
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.                 虐待の束縛
.                 の愛うけわ
.                 たしうけわ
.                 たしうけ遺
.                 伝子わたし
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. もとさきの見えぬ白線踏みてゆく
.    いづれの岸も崩れ落つべし
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. 満開の桜の森に求めても
. 得られぬものは
. 女友達
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.  うつせみの躯で
.  アートする人の
.  かなしからずや
.  モザイクの果て
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.一物を持ちて{ルビ生=あ}れたち
.一物とともに逝くとふ
.汝、
.具してゆけ!
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. 次のよはほもになりたいなんて目で
. 過剰適応
. 仮面鬱病
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. パンジーの黄色みたいに    《え、ちがうよ》
. けんかにならず汚れて     《うふふ》
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.{Je veux ton coeur(こころ欲し) , 君の暮らしを乱すまじ}
.   裡に書いては消し
.   書いて
.   消し
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.   暗黙の了解ありて語られぬ
.ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ
.   語る{ルビ能=アタ}はず
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. なし終へて
. なければならぬ
. はづ
. であり
. 過去の彼女に
. 今のいかづち
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.{注花電車女性器より万国旗を引き出してみせる芸}
.引いて{ルビ下手=シモテ}へ流れ去る
.{cheese cake=(colloq.)display of shapely female body in advertisement etc.(P.O.D. New edition 1978)}
.の白が
.まぶしい
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. 悪臭を放つ言葉を持て余し。
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. 駆り立てられる訳をおもわす筋肉を欲りし備えし失いし年。 はな
.やかに放射する種の人つどい手に受けとれる視線をこぼす。 たっぷ
.りとナルの入った仕草して君は私を見ず手を振りぬ。 解らせぬこと
.には何もはじまらぬプラスチックのタキシード着て。 helmet脱いで
.も丸いskullには欲情しても構わないのね。
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. 静止軌道はさぞ寒かろう。
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.  (首のない姿で思い出を語るナオミちゃんだかサオリちゃんだか)
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. 傷口のkissを交わして
. 張り裂ける前に心へ死
. をしのばせる
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.  「一枚のセルに描かれたあのひととそのこいびとが歩いてきます」
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. こわいけどあまりしんぱいしていない
. 僕の足下には
. 影がない
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. trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!trail
. ler!!trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!
. 余白ではないailler!!trailler!!trailler!!trailler!!trail
. ler!!trailler!!trailler!!trailler!!trai燐の雨trailler!!
. trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!trail
. ler!!trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!
. trailler!!笑い声er!!trailler!!trailler!!trailler!!trail
. ler!!trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!
. trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!traille残せるも
. のを!trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!
. trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!trail
. ler!!trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!
. trailler!!trail枠r!!trailler!!trailler!!trailler!!trail
. ler!!trailler!!tr満つるまでailler!!trailler!!trailler!!
. trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!trail
. ler!!trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!trailler!!
.
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.{注--1997.2 @nifty現代詩フォーラム}.

(題名不詳)

きよらかな市きよらかな砂埃マザリシャリフの赫い絨緞

国道に落下物あり注意せよ(車輪の割れた戦車一台)

どの武器が勝つのでしょうか僕は今朝花爆弾を見送りました

古里の河原いっぱい荒地瓜目をそらすべき場所もなかりき

強力に夢を見ること日の当たる首から下を置き去りにして

来し、方、に、慈、しみたる、ことごとく、誰が骨肉と、なる、ならん、なり

健康に死ぬ、美しく死ぬ、といい、突然いってしまうのだもの

吹きすさぶ青が時間を取り崩す林檎よ林檎海によろしく

責任の取りようがないところまでおのれを通し飛行機に乗る


  ★also readable at: http://www1.u-netsurf.ne.jp/~okiraku/hisenka.htm

油桐

   油 桐(あぶらぎり)


どこまでも途切れぬ雲を従えて空がわたしを置いていってしまう

よこしまな風が来ている群としか言い様のない遠近感で

逝く者は斯の如きか砂煙たてておとめ子らの猛々し

夏雲は昼の光をさえぎらず 雨に打たれて頭蓋がわらう

火焔躑躅のあわいにほそく延びる道 三千体の羅漢ぞ見ゆる

湿っぽい足に踏まるる触感をのこして風は次々とゆく

信号を待ちつつ人の視界から逃れんとして一歩左へ

漆黒の漆にも似たる甲殻を伸ばしちぢめて熊蝉は鳴る

角膜にクレーターなん穿たれし心地しにける風に向かいて

むら雲や ヒトの高さに降りてきて腹すりながらわが町をゆく

背を丸め座るベンチのうわ空をヘリに埋め尽くさるる曇天

廚にて豆ひき臼を洗うとき壁の暦が釘ごと飛びぬ

つばくらめ横様に吹き流されて右へ、西へと家並がなびく

町という生き物ひとつ大風に牙むきおらんそのうなり声

閉じた窓の外を過ぎゆくかなぶんの羽音に押され右にかたむく

虫を打つ物!物!物を目で探す窓の向こうをちりとりがとぶ

山鳴りが人を呼ぶ夜耳栓をつけて駝鳥みたいに眠った

世の中の流れにのらぬ吾のめぐり家のかたちに空気が歪む

流行の花つぎつぎと枯らさるる地にいつからや立つ油桐

「夢風船本日休業」濁流の如き風なり地下道に入る

  
*夢風船 観光ロープウェーの愛称
   

真珠橋

真珠橋  沼谷香澄


青空を見下ろす場所で電話する鳶の背に陽の当たるを見つつ

不条理な大階段を駈け降りよ地下三階に電車が入る

われここに降りなんとすと全身に意思にじませて開扉を待てり

外に出てみれば五月の太陽が矢印をわたしに投げてくる

海側の町は隙間の多くして空のにじんで溜まるにまかす

ブレーキを踏んで左へ目をやれば路地に花あり人あらざりき

逃げ水がルームミラーに映りいて右折するまで追いかけてくる

ドア開けて車の熱を放つとき大かもめ来ぬけわしい顔の

そのめぐりのみ青白くかすみいて真珠橋あり海にかさなる

浜ながらタイル張りなる公園の熱き光をあやしみており

松林すぎてすなわちその下をくぐりて出づるあたらしき浜

橋脚の喫水面の緩衝材その大きさが見てわからない

馬尾藻(ほんだわら)波の表になびく先むらさき色のありて動かず

切れ味の良さそうな羽あそばせてかもめ容易に視界を去らず

油槽船横へ横へと急ぎおり近くに残る澪のみじかさ

惚けるに任せていたという感じ過去形でしか言えない感じ

橋の影堅くわずかにもりあがり橋と同じき島めざしおり

抒情する警備員あり海よりもはるかに青き制服を着て

変電所あっけらかんと涼しかり 気のおばけ棲みけるにあらずや

花の香の濃くなりまさる会議室コートの脇に積まれたる、束(たば)

ひとつかみ心を家に残しきてゆわゆわとすずろがましき背中

オルゴールをオイルに沈め三分の曲ひきのばす九十分に

休み明けのメールシステムさくらばな三日見ぬ間にパンクしており

胡桃入り雑魚の煮物の雑魚食わず胡桃ばかりを選りてはむ朝

清潔に如くは無けれど掃除せず機は熟せりと吾の思うまで

淀川のかがやきすぎる昼に居て群るるかもめの過去(すぎゆき)ゆかし

フジツボにくちばしはある乾いても白くなってもひとつずつある

人影の無い水揚げ場 ものあまた山積みされて乾いた光

なにいろに塗られようとも壁は壁ひいやりと我不透明たり

たたなわるテトラポッドのたつる音。波の包容力をかんじる

Monday, February 25, 2008

「このひと」より

蕭々と偏西風が吹いているふたり百里の隔たりの内

Sunday, February 24, 2008

春の恋歌一首

しのぶれど真夏のごとき光もてミモザアカシアあふれてしまう

 ミモザアカシアは通常ミモザとのみ呼ばれ一般的に見らるる庭木なり。ときに大木あり。花は小粒の丸きをたわわに実るがごとく咲かすなり。地方によりて時季は異なれど春の花なり。春早きこの季節我がしもふさのくににて鮮やかな黄色の花を盛んにつける様見事なり。
 この一首文語にて書き起こしたれど結句に現代語を用いたる故新かなづかいを用いたり



  初出:http://po-m.com/forum/ [2007年3月5日10時32分]

Saturday, February 23, 2008

桜と書物

花びらを踏む春の底白くなる新車を積んだ枠を見送る

裏声でちいさく歌う君が代にさくらはなびら立ち上がり舞う

豊穣の池のおもてに膜がありたった一匹亀が鼻出す

「宿り木じゃないんだあれは病む桜」秩序を乱す花に蝶なし

春はいつ来たのだろうか北風の嵐に雨の花びらが降る

かきあつめ手に盛るさくらはなびらを抜けて手を這いあがるはザムザ



  初出:http://po-m.com/forum/ [2007年4月14日6時13分]