真珠橋 沼谷香澄
青空を見下ろす場所で電話する鳶の背に陽の当たるを見つつ
不条理な大階段を駈け降りよ地下三階に電車が入る
われここに降りなんとすと全身に意思にじませて開扉を待てり
外に出てみれば五月の太陽が矢印をわたしに投げてくる
海側の町は隙間の多くして空のにじんで溜まるにまかす
ブレーキを踏んで左へ目をやれば路地に花あり人あらざりき
逃げ水がルームミラーに映りいて右折するまで追いかけてくる
ドア開けて車の熱を放つとき大かもめ来ぬけわしい顔の
そのめぐりのみ青白くかすみいて真珠橋あり海にかさなる
浜ながらタイル張りなる公園の熱き光をあやしみており
松林すぎてすなわちその下をくぐりて出づるあたらしき浜
橋脚の喫水面の緩衝材その大きさが見てわからない
馬尾藻(ほんだわら)波の表になびく先むらさき色のありて動かず
切れ味の良さそうな羽あそばせてかもめ容易に視界を去らず
油槽船横へ横へと急ぎおり近くに残る澪のみじかさ
惚けるに任せていたという感じ過去形でしか言えない感じ
橋の影堅くわずかにもりあがり橋と同じき島めざしおり
抒情する警備員あり海よりもはるかに青き制服を着て
変電所あっけらかんと涼しかり 気のおばけ棲みけるにあらずや
花の香の濃くなりまさる会議室コートの脇に積まれたる、束(たば)
ひとつかみ心を家に残しきてゆわゆわとすずろがましき背中
オルゴールをオイルに沈め三分の曲ひきのばす九十分に
休み明けのメールシステムさくらばな三日見ぬ間にパンクしており
胡桃入り雑魚の煮物の雑魚食わず胡桃ばかりを選りてはむ朝
清潔に如くは無けれど掃除せず機は熟せりと吾の思うまで
淀川のかがやきすぎる昼に居て群るるかもめの過去(すぎゆき)ゆかし
フジツボにくちばしはある乾いても白くなってもひとつずつある
人影の無い水揚げ場 ものあまた山積みされて乾いた光
なにいろに塗られようとも壁は壁ひいやりと我不透明たり
たたなわるテトラポッドのたつる音。波の包容力をかんじる
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