Tuesday, February 26, 2008

油桐

   油 桐(あぶらぎり)


どこまでも途切れぬ雲を従えて空がわたしを置いていってしまう

よこしまな風が来ている群としか言い様のない遠近感で

逝く者は斯の如きか砂煙たてておとめ子らの猛々し

夏雲は昼の光をさえぎらず 雨に打たれて頭蓋がわらう

火焔躑躅のあわいにほそく延びる道 三千体の羅漢ぞ見ゆる

湿っぽい足に踏まるる触感をのこして風は次々とゆく

信号を待ちつつ人の視界から逃れんとして一歩左へ

漆黒の漆にも似たる甲殻を伸ばしちぢめて熊蝉は鳴る

角膜にクレーターなん穿たれし心地しにける風に向かいて

むら雲や ヒトの高さに降りてきて腹すりながらわが町をゆく

背を丸め座るベンチのうわ空をヘリに埋め尽くさるる曇天

廚にて豆ひき臼を洗うとき壁の暦が釘ごと飛びぬ

つばくらめ横様に吹き流されて右へ、西へと家並がなびく

町という生き物ひとつ大風に牙むきおらんそのうなり声

閉じた窓の外を過ぎゆくかなぶんの羽音に押され右にかたむく

虫を打つ物!物!物を目で探す窓の向こうをちりとりがとぶ

山鳴りが人を呼ぶ夜耳栓をつけて駝鳥みたいに眠った

世の中の流れにのらぬ吾のめぐり家のかたちに空気が歪む

流行の花つぎつぎと枯らさるる地にいつからや立つ油桐

「夢風船本日休業」濁流の如き風なり地下道に入る

  
*夢風船 観光ロープウェーの愛称
   

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