どこまでも途切れぬ雲を従えて空がわたしを置いていってしまう
よこしまな風が来ている群としか言い様のない遠近感で
逝く者は斯の如きか砂煙たてておとめ子らの猛々し
夏雲は昼の光をさえぎらず 雨に打たれて頭蓋がわらう
火焔躑躅のあわいにほそく延びる道 三千体の羅漢ぞ見ゆる
湿っぽい足に踏まるる触感をのこして風は次々とゆく
信号を待ちつつ人の視界から逃れんとして一歩左へ
漆黒の漆にも似たる甲殻を伸ばしちぢめて熊蝉は鳴る
角膜にクレーターなん穿たれし心地しにける風に向かいて
むら雲や ヒトの高さに降りてきて腹すりながらわが町をゆく
背を丸め座るベンチのうわ空をヘリに埋め尽くさるる曇天
廚にて豆ひき臼を洗うとき壁の暦が釘ごと飛びぬ
つばくらめ横様に吹き流されて右へ、西へと家並がなびく
町という生き物ひとつ大風に牙むきおらんそのうなり声
閉じた窓の外を過ぎゆくかなぶんの羽音に押され右にかたむく
虫を打つ物!物!物を目で探す窓の向こうをちりとりがとぶ
山鳴りが人を呼ぶ夜耳栓をつけて駝鳥みたいに眠った
世の中の流れにのらぬ吾のめぐり家のかたちに空気が歪む
流行の花つぎつぎと枯らさるる地にいつからや立つ油桐
「夢風船本日休業」濁流の如き風なり地下道に入る
*夢風船 観光ロープウェーの愛称
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